本編は、当部入手の資料及調査を基礎として編纂し、泰国陸軍の装備兵器機材の概要を 説明せしものなるも、従来此の種資料極めて少なく、泰国軍の全貌を会得せんには遺憾の點尠しとせず。今後の調査に依り逐次補修訂正する処あらんとす。
本編挿入の写真は、戦捷記念観兵式(昭和16年春)に於ける泰国陸軍の現状を撮影せしものなり。
泰国陸軍の装備する兵器は悉く外国製にして、其の多くは日本、英国及び瑞典より購入せるものなり。
近時軍事の拡充に全力を傾注せし為、優秀なる近代兵器を整備しある感あるも泰国内に兵器製造所を有せず、只管外国のみに依存しある現況は大なる弱点なりと言はざるべからず。
装備兵器製造国を大別すれば左の如し。
1.携帯兵器 日本、英国
2.火砲 瑞典
3.戦車、装甲車 日本、英国
歩兵は約18大隊ありて、推定兵力は16500乃至18900なり。
大隊によりて編成を異にするも、概ね左の如き編成なり。
歩兵大隊 18
一般小銃中隊 2(1又は3のことあり) 搬送(又は駄載)機関銃中隊 1 通信小隊 1
歩兵学校教導隊
一般小銃中隊 2 駄載機関銃中隊 1 歩兵砲中隊 1 通信小隊 1 医務小隊 1 獣送小隊 1
歩兵の装備兵器は大略左の如し。
歩兵大隊
小銃 288 軽機関銃 54 重機関銃(搬送又は駄載) 16 擲弾筒 72
註 右は一般小銃中隊を2とせる場合
歩兵学校教導隊
小銃 480 軽機関銃 96 擲弾筒 120 重機関銃 36 歩兵砲 27
歩兵の装備兵器は概略左の如し。
1.歩兵銃及銃剣
2.機関銃
3.擲弾筒
4.迫撃砲
1.歩兵銃及銃剣
泰国歩兵は歩兵銃として日本製三八式歩兵銃を、銃剣として同じく三〇年式銃剣を装備しあるものの如し。
2.機関銃 泰国装備の機関銃には
1) 側車附自動二輪車に装着せるもの
2) 英国製ビッカース、7.7粍機関銃 の二種あり
1) 側車附自動二輪車に装着せるもの
本機関銃並びに自動二輪車は詳細不明なり、然れども泰国軍の装備数は写真より推量して相当多数所有せる模様なり。
2)ビッカース、7.7粍重機関銃(1909年式)
本重機関銃は英国ビッカース・アームストロング社製にして口径7.7粍、銃身後坐反動利用式機関銃なり。
銃身の冷却法は水冷式、射撃は本然脚のままか、或は高射銃架を以て実施す。
尚装填架には弾薬250発挿の布製保弾帯により給弾す。
泰国軍は本機関銃を自動貨車により運搬す。
3.擲弾筒を装備しあることは確実なるも、名称口径等は不明なり。写真により判断するに口径60粍以上の重擲弾筒なるものの如し。
4.迫撃砲 迫撃砲として九四式軽迫撃砲を装備す。
装備諸元省略す。
騎兵は6連隊(18中隊)ありて、推定兵力2800なり。
概ね左の如き編成なり。
騎兵連隊
本部
騎兵中隊 2 機関銃中隊 1 通信小隊 1
註 騎兵連隊の兵力約460、通信小隊を有するは近騎及第1大隊のみなり。
騎兵連隊の装備は大略左の如し。
軽機関銃 14 小銃 308 短銃 34
騎兵に装備しある軽機関銃及小銃は、歩兵のものと同一なりと見做し得るを以て、本節においては省略す。
尚短銃は如何なるものか不明なり。
1.野戦砲兵
砲兵大隊 11 (23ー25中隊)
大隊は本部及中隊2又は3よりなる。
砲兵中隊は左のものあり。
自動車搭載山砲兵中隊 2
繋駕山砲兵中隊 14
野砲兵中隊 1
10糎加濃中隊 1
10糎榴弾砲中隊 1
15糎榴弾砲中隊 1(?)
その他 4乃至6
砲兵の推定兵力 4500〜4800
砲兵の全火砲装備数
山砲 64門 野砲4門 10糎加濃4門 10糎榴弾砲4門(?) 15糎榴弾砲4門 其の他16乃至24門 合計96乃至104門
2.高射砲兵
高射砲兵連隊 1
本部 1 高射砲大隊 3 通信中隊 1 医務中隊 1
高射砲兵の装備は左の如し。
80粍高射砲 8門 40粍高射砲 24門 12.7粍高射機関銃 24門 照空燈 8台 聴音機 6台
泰国砲兵の火砲は、最近入手せる写真資料により見れば、殆ど機械化せられあり。
殆ど瑞典ボホース社製なることは、大なる特徴なり。
1.ボホース(瑞典)社二砲身歩兵砲
本砲は20口径81粍滑腔砲身と、45口径37粍施綫砲身とを上下に並列せる所謂二砲身歩兵砲にして、前者は迫撃砲として、後者は対戦車砲として使用さる。
閉鎖機、砲尾體及び砲架は共通、砲身は極めて簡単に交換し得。 運搬様式は車載、繋駕、駄載、分解運搬何れも可なり。
2.ボホース(瑞典)社75粍野砲
本砲は砲身長45口径、身管は簡単に予備身管と交換し得。
垂直鎖栓式閉鎖機、液壓駐退空気復坐機を備へ、防盾は上、中、下の三部に分かれ、上、下部は折畳式、上、中部は方向照準に従って砲架と供に可動なり。
初速700米、最大射程14000米、放列砲車重量1550キロなり。
3.山砲
泰国軍装備の山砲は、写真に示す如きものなるも詳細不明なり。
我が四一山砲級の性能のものならん。
4.ボホース(瑞典)社10糎榴弾砲
本砲は22口径10.5糎榴弾砲にして、開架式砲架、水平鎖栓式閉鎖機を有し、駐退機及復坐機は液暦並びに液気壓式にして砲身下部の円筒型揺架中に収めらる。
初速476米秒、最大射程10500米、放列砲車重量1650キロなり。10糎榴弾砲としては優秀の部類に属す。
5.ボホース(瑞典)社10糎加農
本砲は口径10.5糎、砲身長42口径にして、砲架は装輪開脚式、駐退復坐機は砲身下部にある円筒型揺架中に収納さる。
防盾前方に平衡機あり。最大射程は17800米、放列砲車重量3750粁,運搬は機械牽引に依る。
6.ボホース(瑞典)社15糎榴弾砲
泰国観兵式に初登場せる写真に依れば、ボホース(瑞典)社15糎榴弾砲を装備しあり。
他の火砲即ち10糎加濃、10糎榴弾砲と同型式にして、外観より直ちにボホース製なること明瞭なり。
本15糎榴弾砲に関する資料なき為1例としてボホース社15糎榴弾砲の諸元を左に示す。
7.ビツカース(英)社40粍高射機関砲
本機関砲は英国ビツカース社製にして、航空機発達に伴ひ近時盛んに製造されたものなり。
泰国軍においても本機関砲を購入装備しあるも、其の装備数は僅少なり。
泰国軍は本機関砲をビツカース・アームストロング牽引車に搭載す。
本機関砲は口径40粍、砲身長50口径(2000粍)、最大射程6100米、最大射4350米、発射速度約200発・分、近代式兵器に属す。
牽引車 ビツカース牽引車の主用諸元は左の如し
重量5.7t 全長 4.7m 全幅 2.24m 機関 空冷、水平式4気筒ガソリン機関 速度48km/h 最大馬力 80hp 乗員 8名
本牽引車は火砲をも牽引し得るものにして、高射機関砲のみを搭載するものなりとは謂い難し。
高射機関砲の運搬に便利なるため、本牽引車を利用し居るものならん。
8.ボホース(瑞典)社80粍野戦高射砲
本砲は口径80粍、砲身長50口径の高射砲にして、泰国軍には之を八門装備しあり。
然れども世界の現状逼迫せしため、尚多数の高射砲を整備中なりと思惟するを妥当とせん。
本砲は内管交換式の砲身にして、駐退復坐機は砲身の上下に位置し、砲架は装輪基筒4脚式、運搬様式は機械牽引式、最大射9700米、放列砲車重量3000キロなり。
本砲の牽引車として、ランヅヴエルク装軌式牽引車を使用す。
9.照空燈
泰国の防空部隊に装備せる照空燈は、詳細不明なるも参考の為写真を掲ぐ。
泰国工兵は其の兵力微弱にして、取るに足らず。
僅か工兵 6ケ中隊 内 架橋中隊 2 鉄道中隊 1 にして、兵力約1000名なり。工兵の装備兵器並に機材は不詳なり。
泰国の装備しある戦車も亦全部外国製にして、英国製多く、一部日本製もあり。
装備数数百台あるも、その補給及整備は自国に於いて成し得ざる現況なり。
泰国の戦車兵の編成左の如し。
本部 1 戦車中隊 5 装甲車中隊 1 通信小隊 1 医務小隊 1
戦車兵の装備は前述せる如く、英国製車輛を多数購入しある状況なり。
近時日本よりも、若干購入装備す。
一般に泰国は、優秀兵器を装備するも演練に缺くありと聞く。
戦車、装甲車を十二分に威力を発揮せしめるや、否や疑問なり。
左に逐次装備戦車、装甲車を記述す。
1.九五式軽戦車
日本製の九五式軽戦車を若干装備せり。 詳細は省略す。
2.カーデン・ロイド・マークVI小型戦車
本戦車は英国製なり。軽快なる小型戦車にして、歩兵に随伴し戦闘、捜索及警戒に任じ、或は牽引車として活躍す。 泰国は本戦車を相当装備す。
諸元 重量 1.7t 全長 2.46m 全幅 1.7m 全 1.22m 地上 0.29m 乗員 2名
装甲 6〜9mm 武装 機関銃1(迫撃砲1のものあり)
機関 フォードT型水冷4気筒 出力 22.5hp 速度 45km/h
超越壕幅 1.22m 超越堤高 0.40m 攀登傾斜 45度 徒渉水深 0.65m 壓倒樹経 0.10m
3.カーデン・ロイド・マークVI星型小型戦車
本戦車は英国に於いて現用されある小型戦車にして、泰国は本戦車を購入し、装備す。
本戦車は 型に改修を加えへたるものにして、上部装甲板を傾斜せしめ、無限軌道の為に、新たに2個の上部動輪を増設しあり。
諸元 重量 1.86t 全長 2.46m 全幅 1.75m 全 1.22m 乗員 2名
装甲 5〜7mm 武装 7.7MG1(又は12.7粍MG)1
機関 アームストロング・シドレイ空冷ガソリン機関 出力 285hp 速度 45km/h
超越壕幅 1.22m 攀登傾斜 40度 行動距離 161km
4.ビッカース・アームストロング6tB型戦車
本戦車は英国製(1931年)にしては、旧式に属する戦車なるも、泰国軍之を装備す。
本戦車は単砲塔にして、機関銃の他無線受信機を装備し、戦車の停止中の通信距離は電話にて約8キロ、電信にて約12キロに達す。
諸元 重量 6.655t 全長 4.556m 全幅 2.3m 全 2.183m 地上 0.38m 乗員 3名
装甲 砲塔及垂直面13mm 機関室8mm 上面・底面5mm
武装 47mm砲1、MG1 双連 携行弾数 砲 50 銃 4000
機関 アームストロング・シドレイ水平型空冷4気筒 出力 885hp 速度 45km/h
超越壕幅 1.83m 超越堤高 0.76m 攀登傾斜 45度 徒渉水深 0.90m 壓倒樹経 0.35m 油漕 132l (註 毘社型録による)
5.モリス・ビツカース装甲車
本装甲車は英国製にして、泰国之を装備す。
諸元 重量 4.25t 全長 5.27m 全幅 1.93m 全 2.42m 装甲 7mm
武装 機関銃1 乗員 3名 最大速度 64km/h 行動距離 250km